【vol.26】追い求めたのは、「速さ」ではなく「強さ」。青春疾走駅伝物語。三浦しをん『風が強く吹いている』

-古本屋ATrACT-小説図鑑vol.26

風が強く吹いている

箱根駅伝

限りなく個人競技に近い団体戦。
だからこそ、仲間との絆が何よりも必要とされるのだろう。
「信じるなんて言葉ではたりないぐらいに」

箱根駅伝を走りたい。
右足に爆弾を抱え、陸上界から距離を置いていた大学4年・清瀬灰二(ハイジ)の燻っていた想いが、
ワケアリ天才ランナー・蔵原走(カケル)と出会って動き出した。

カケルを(半ば強引に)下宿「竹青荘(通称:アオタケ)」に住まわせたハイジは、
カケルの歓迎会の席でアオタケの住民たちに高らかに宣言した。

目指すは箱根駅伝だ

こうして、アオタケ住人10人の、駅伝への挑戦が(強制的に)始まった。

アオタケの住人は、もちろんのこと陸上経験などまるでない初心者の集まりだ。
ただ家賃が安かっただの居心地が良いだのの理由でボロアパートに住み着いていただけの大学生だ。

そんなド素人集団の、無謀にも思える箱根への道。

最初はやらされている感の抜けきれなかった面々だが…
成長や挫折。嬉しさや悔しさ。走ることを通じて様々なことを経験していく。
どんどんどんどん走りにのめり込んでいく彼らの姿を、応援せずにはいられなくなっていた。

速い記録を出す事だけが、全てではない。
10人の選手がいれば、10の走りがあった。
個性豊かすぎる10人には、それぞれにバックボーンがある。
この箱根駅伝へ挑んだ一年を経て、アオタケの各人がそれぞれの答えを出していく。
そこに至るまでの道のりが丁寧に丁寧に描かれていた。

そして、襷を繋ぐ瞬間の感動が堪らない
それぞれが、それぞれの想いを抱えて、襷を繋いでいく。
襷を渡す瞬間・受け取る瞬間の心理描写に毎回毎回心を揺さぶられた。
その二人の関係性であったり、それまでの記憶であったり…
実際の時間にして一瞬のその間に、あれだけの想いが詰まっているんだ。

「速く」ではなく、「強く」
ハイジはカケルにそう言った。

一体、強さとは何なのか。

素直に純粋に。胸が熱くなった青春疾走物語。
物語ってのは「希望」なんだ。

読めば、走り出さずにはいられない。

総評:94%
オススメ度:★★★★★★

作品データ
タイトル:風が強く吹いている
作者:三浦しをん
発表年:2006
出版:新潮社